マッピング




遺伝子の位置を特定しよう!


マッピング(mapping)とは、発見した突然変異(ここでは劣性変異として m と置く)が染色体上のどこに位置しているのか決定することです。ここでは古典遺伝学的なテクニックを紹介します。材料や目的によっては、分子生物学的なテクニックも利用できますので、指導者のアドバイスをもらいながら効率的な方法を選択しましょう。



相補性検定


キイロショウジョウバエで突然変異体をスクリーニングしていて、可視突然変異を発見した場合を考えてみましょう。既知の可視マーカーから似た表現型のものを探し、交配します。たとえば、よく見つかる変異体として複眼の色が暗いものがあります。この場合には、bw pr se などと交配してみましょう。F1がすべて変異体であれば、そのマーカーと同一の遺伝子座と見てよいでしょう。

P   ♀♀ m/m × bw/bw ♂♂
F1 m/bw
[+] or [bw]


染色体の決定


相補性検定が通用しない場合は、まずどの染色体に突然変異が乗っているのか決定します。下記のように交配し、F1雄に変異体が出現すれば伴性遺伝であり、X染色体上に突然変異が乗っていることがわかります。

P   ♀♀ m/m × +/Y ♂♂
F1 m/+
[+] ♀
m/Y
[m] ♂

伴性遺伝が見られなければ、常染色体(第二染色体か第三染色体)上に乗っているはずです。ここでは、優性可視マーカーやバランサー染色体を利用した方法を見てみましょう。以下の交配図に登場する Cy/Pm は In(2LR)SM1/In(2LR)Pm と考えてください。まず、突然変異が第二染色体上にあった場合、

P   ♀♀ m/m ; +/+ × Cy/Pm ; +/+ ♂♂
F1 ♀♀ m/m × Cy/m ♂♂
F2 Cy/m
[Cy]
m/m
[m]

となり、F2 に [Cy m] の二重変異体は出現しません。一方で、突然変異が第三染色体上にあった場合は下記のとおりで、F2 に二重変異体の [Cy m] や、野生型の [+] が出現します。

P   ♀♀ +/+ ; m/m × Cy/Pm ; +/+ ♂♂
F1 ♀♀ +/+ ; m/m × Cy/+ ; m/+ ♂♂
F2 Cy/+ ; m/m
[Cy m]
Cy/+ ; m/+
[Cy]
+/+ ; m/m
[m]
+/+ ; m/+
[+]


多重マーカーマッピング


目的の突然変異がどの染色体に乗っているか決定できたら、つぎは突然変異が染色体のどこに位置するのかを決定します。キイロショウジョウバエでは、一本の染色体上にたくさんの可視マーカーが乗った系統が作出されているので、これを利用して遺伝的組換えに基づきマッピングを進めます。三点交配の拡張版と考えればわかりやすいでしょう。



欠失地図作成法


劣性の可視マーカーは、ヘテロ接合では表現型に現れません。しかし、欠失(Df )とのヘミ接合では表現型が現れます。この性質を利用したのが、欠失地図作成法です。マーカーとの組換え率から突然変異の位置が大雑把にわかったら、その周辺が欠失した系統を多数、ストックセンターから取り寄せます。あとは、これらの欠失系統を片っ端から交配していきます(下記の交配図ではバランサー染色体を Bal と表記します。欠失は基本的に劣性致死のため、平衡致死系統として維持されているのです。[Bal] はバランサー染色体上の優性可視マーカーが発現していることを意図しました。)。F1 に [m] が出現すれば、交配に用いた Df の欠失範囲内に m が位置していることになります。つづけて、さらに小さな Df を取り寄せて、候補領域を絞っていきます。

P ♀♀ m/m × Df/Bal ♂♂
F1 m/Df
[+] or [m]
m/Bal
[Bal]