遺伝子地図は、染色体上の遺伝子の並びを示したものです。ショウジョウバエの業界では唾腺染色体を利用した細胞学的地図(cytological map)と、マーカーの連鎖と組換えを利用して作成された遺伝学的地図(連鎖地図, linkage map)の二種類があります。この二つを照合することで、遺伝子の担体が染色体であることがわかり、「遺伝の染色体説」が立証されました。地図が二種類あるということは、遺伝子の位置も二通りの記述方法があります。例えば Star ならば、連鎖地図位置は2-1.3で、これは第二染色体の左端から1.3%の確率で組換えが起こることを意味します。細胞学的地図位置は21E4周辺で、第二染色体の21番地E領域の4番目のバンド周辺であることを意味します。近年では分子生物学的手法を利用した物理的地図も存在します。
連鎖地図は組換えに基づいて作成されています。セントロメアとテロメアの近くはヘテロクロマチン化しており、組換えが起こりにくいので地図距離が短くなります。また、組換えのデータは遺伝的背景や染色体変異、有害変異による生存力の変化、温度などに影響されることにも注意が必要です。
初学者が勉強しておくと良いキーワードとして、多重乗換え(multiple crossing-over)、三点交雑(三点交配, three-point cross)、干渉(乗換えの干渉, キアズマ干渉, 組換え干渉, interference)などが挙げられます。最後に、キイロショウジョウバエの遺伝子数を紹介しておきます。
種類 | ユークロマチン Euchromatin | ヘテロクロマチン Heterochromatin |
タンパク質コード遺伝子 Protein-coding genes | 13379 | 297 |
トランスファーRNA tRNA genes | 290 | 0 |
リボソームRNA rRNA genes | 主に性染色体上にあり、コピー数は系統間で異なる。 | |
microRNA genes snRNA genes snoRNA genes | 79 | ? |
偽遺伝子 Pseudogenes | 17 | ? |
トランスポゾン Transposons | 1572 | ? |
Celniker and Rubin (2003) をもとに作成。 |
参考文献
澤村京一 2005. 遺伝学(初版). サイエンス社
鵜飼保雄 2000. ゲノムレベルの遺伝解析(初版). 東京大学出版会
Ashburner, Golic and Hawley 2005. Drosophila a laboratory handbook (2ed). CSHL Press.
Celniker and Rubin 2003. The Drosophila melanogaster genome. Annual review of genomics and human genetics. 4(1):89-117.
R. C. King and W. D. Stansfield, 監訳:西郷薫, 佐野弓子, 布山喜章 2005 遺伝学用語辞典(第六版). 東京化学同人