交配実験の基本




基本をおさえて楽しく実験!


ここでは、交配実験を行う上での、基本的なお作法を紹介します。本ページではキイロショウジョウバエを25℃で飼育した場合における手順を解説しています。交配実験を始める前に、まずは交配図を描いてみましょう。こうすることで、どの遺伝子型のハエを、いつまでに準備すればよいかはっきりします。つぎに、保存していた系統を株分けし、実験用の系統をつくります。保存用と実験用を分けるのは、万一のコンタミに備えるためです。



処女雌集め


飼育瓶中のハエは自由に交配してしまっているので、そのままでは交配実験に使えません。そこで、未交尾の雌(処女雌、virgin)を集めます(以下 vとり)。はじめに、vとりをしたい系統の仕込みを行います。目的の系統から雌雄を適量とりだして、新しい餌瓶に入れます。この瓶を1st cultureと呼びます。このとき、一つの瓶にたくさん産卵させてしまうと、幼虫の唾液で餌がドロドロになり、vとりの操作が困難になります。初心者なら、3♀を入れて一日おきにエサ交換してみましょう(Table 1)。こうしてエサ交換を繰り返し、2nd culture, 3rd culture...と作っていきます。キイロショウジョウバエを25℃で飼育すると、産卵から10日目で羽化がはじまります。ここで、瓶中の羽化してきた新成虫を全て捨てます(以下 親だし)。そして、親だしから8時間以内に新しく羽化した成虫のなかから、雌だけを集めて隔離飼育します。羽化後8時間以内の若い雄は交尾する能力がないので、これらの雌は未交尾とみなせるのです。ふつうは、「朝実験室に来たら親だし→ 昼休みにvとり兼親だし→ 夕方にvとりして帰宅」のパターンとなります。こうして集めた雌は3-5日ほど保存して、幼虫がわいてこないこと、つまり間違いなく処女雌であることを確認し、交配へ用います。なお、産卵のピークは夕方(Allemand 1976)、羽化のピークは朝(Kouser and Shakunthala 2012)、と言われています。

雌のほうが雄より早く羽化する傾向があるので、羽化開始日から数日がたくさんの雌を集めるチャンスです。それ以降は雄が多くなり、羽化個体数も減少して非効率的になってきますから、まずはTable 1のように14日目できりあげる方法をとってみましょう。また、金曜日にcultureを仕込めば、10日後の月曜日から羽化がはじまるので、土日に休暇をとることができます。

参考文献
大島長造編 1983. 集団・行動遺伝学研究法. 共立出版株式会社
Allemand 1976. Les rythmes de vitellogenese et d'ovulation en photoperiode ld 12:12 de Drosophila melanogaster. Journal of Insect Physiology 22(7): 1031-1035.
Kouser and Shakunthala 2012. Eclosion behaviour of three species of Drosophila under different light regimes. Indian Journal of Experimental Biology 50(9): 660-664.


Table 1. 推奨されるvとりプラン(25℃)
一般的な例として、「産卵が二泊三日、vとりが四泊五日」のスケジュールを示した。虚弱な系統の羽化開始日は、本表より遅れることがある。実験に慣れ、系統ごとの生産力を見極められるようになったら、産卵させる頭数および日数、vとりの日数を適宜増減せよ。
日数 1st
culture
2nd
culture
3rd
culture
4th
culture
0 成虫を入れる/産卵
1 産卵
2 産卵/成虫を移動⇒ 成虫を入れる/産卵
3 産卵
4 産卵/成虫を移動⇒ 成虫を入れる/産卵
5 産卵
6 産卵/成虫を移動⇒ 成虫を入れる/産卵
7 産卵
8 産卵/成虫をすてる
9
10 羽化開始/vとり
11 vとり
12 vとり 羽化開始/vとり
13 vとり vとり
14 vとり/cultureを廃棄 vとり 羽化開始/vとり
15 vとり vとり
16 vとり/cultureを廃棄 vとり 羽化開始/vとり
17 vとり vとり
18 vとり/cultureを廃棄 vとり
19 vとり
20 vとり/cultureを廃棄


交配


集めた処女雌と、交配したい系統の雄を一本の餌瓶に入れます。自由に交配し、遅くとも翌日からは受精卵を産卵し始めます。初心者のうちは一瓶に3♀を入れて、一日おきにエサ交換してみましょう。こうしてエサ交換を繰り返し、2nd culture, 3rd culture...と作っていきます。ここからvとりを行う場合には、次世代が混在しないように、どんなに長引いてもcultureを作ってから18日目で終了とします。ここからカウントを行う場合は、下記を参照してください。



ハエのカウント


羽化したハエをカウントしようと考えているcultureも、産卵数を抑えて幼虫の唾液で餌がドロドロになったりしないように注意します。特定の表現型が餌で溺死しやすかったりすると、分離比が歪んでしまい、誤った結論を導いてしまうかもしれません。くわえて、汚損したり死体となったハエは数えにくいので、できるだけこまめにカウントすべきです。初心者のうちは、一日おきにカウントしてみましょう。次世代が混在すると分離比が歪むので、カウントはcultureを作ってから18日目で終了とします(Table 2)。


Table 2. 推奨されるカウントプラン(25℃)
成虫を移動後に死体が落ちている場合は、P世代とF1世代の死体を混同しないよう、ピンセット等で全ての死体をつまみとっておくこと。
日数 1st
culture
2nd
culture
3rd
culture
4th
culture
0 交配/産卵
1 産卵
2 産卵/成虫を移動⇒ 成虫を入れる/産卵
3 産卵
4 産卵/成虫を移動⇒ 成虫を入れる/産卵
5 産卵
6 産卵/成虫を移動⇒ 成虫を入れる/産卵
7 産卵
8 産卵/成虫をすてる
9
10 羽化開始/カウント
11
12 カウント 羽化開始/カウント
13
14 カウント カウント 羽化開始/カウント
15
16 カウント カウント カウント 羽化開始/カウント
17
18 カウント/cultureを廃棄 カウント カウント カウント
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20 カウント/cultureを廃棄 カウント カウント
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22 カウント/cultureを廃棄 カウント
23
24 カウント/cultureを廃棄