採集




道具



捕虫網


昆虫採集道具の王道ですが、少量のショウジョウバエを採集するだけなら、むりに購入する必要はありません。昆虫マニアが使っているような、本格仕様の捕虫網はしなやかな布製で、網戸よりも細目の網です(寒冷紗やガーゼのような粗い布を想像すればわかりやすいでしょう)。キイロショウジョウバエの体長は2-3mmですが、こうした真面目な捕虫網なら問題なく採集できます。スウィーピングで捕獲したショウジョウバエは、吸虫管で集めます。



吸虫管


ショウジョウバエの採集では必需品となります。昆虫採集の教科書に出てくるような吸虫管では大きすぎるので、ショウジョウバエ専用のものを作成します。外径6mm、肉厚1mmほどのガラス管を用意します。これを拳4個分の長さに切り出し、中点をガスバーナで加熱します。中点が柔らかくなったところで、ガラス管を両端に引っ張り、中点を伸ばします。伸びた中点はくびれます。ガラスが冷めたら中点で折り、すべての断面をバーナーで炙って角をとります。これで吸虫管本体が二本できました。このくびれた端は、ハエを吸い込む吸口になります。くびれていない端には、ストッキングなどの細目網を1cm四方に切り出してかぶせます。この網は、吸い込んだハエを食い止めるフィルターの役割をします。さらに、この上からビニルチューブをかぶせて、網を固定します。ここで、ガラス管部分を鉛筆のように持ち、持っている腕を伸ばしきります。つづいて、ビニルチューブを首の後に回し、口元に届く長さで切断します。これで吸虫管の完成です。

吸口は用途によって作り分けるとよいでしょう。実験室内で繊細な作業をするときは、小径で肉薄の尖った吸口が便利です。著者の吸虫管は吸口内径2.5mmで、これならばキイロショウジョウバエでの作業性は良好、くわえてやや大型のアカショウジョウバエやオウトウショウジョウバエにも対応できます。

野外採集で持ち歩く場合には、吸口に強度が求められます。バーナーで炙る時間を長くすると肉厚に仕上がり、堅牢になります。長時間炙ると内径も小さくなりますので、完成目標よりやや太めのくびれを用意します。採集対象がキイロショウジョウバエや、同胞種のオナジショウジョウバエならば、吸口内径2.5mm前後で事足ります。もしも、もっと大型の種も採集するなら吸口内径2.8-3.0mmも用意しておくと安心です。ここまで大径になると吸引に力が必要です。また、一頭ずつ狙い獲りする精度はやや劣りますから、ホバリング中の個体を捕獲する用途には不向きです。しかし、吸口にハエをつまらせて傷つけるよりはましです。なお、野外採集で使用した吸虫管は不衛生ですから、実験室では使用しないようにしましょう。



トラップ採集


野外でエサに集まっているショウジョウバエを、一頭ずつ吸虫管で捕獲します。大量に捕獲したい場合はエサの周囲でスウィーピングし、捕虫網に集めた個体を吸虫管で吸い出します。落果して香りを放っている果実や、樹上で裂けた果実によく集まっています。樹液や生ゴミにも集まります。また、皮をむいたバナナを容器に入れて日陰に放置し、誘引する方法もあります(バナナトラップ)。エサの果物が落ちていることの多い秋に採集するのがおすすめです。



標本


生かしたまま持ち帰り、系統化するのがショウジョウバエ採集の醍醐味ではありますが、ここでは標本にしたい人向けの情報を書いておきます。ふつうの昆虫なら昆虫針で胸を刺して、展翅展足した乾燥標本にします。しかし、ショウジョウバエは小さな昆虫なので、液浸標本にするのが一般的です。水30%にエタノール70%の固定液(通称 7エタ)を、スクリュー管瓶などにいれて持ち歩きます。ショウジョウバエが採集できたらこの固定液に入れていき、持ち帰ってから実体顕微鏡でソーティングするとよいでしょう。標本には必ずラベルを付けましょう。採集場所・採集日時・採集者の情報はもれなく記入しておきます。


ラベル記入例 表
                          
Tamazawa, Mishima City, Shizuoka, Japan
15th Nov. 2013
Yoshitsune Minamoto leg.


ラベル記入例 裏
                          
Drosophila oshimai

ツバキショウジョウバエ


紙ラベルに鉛筆で記入するのが一般的です。このラベルは、虫と一緒に標本ビンの中へ入れて保管します。もしも、ペンでラベルを記入していると、字が標本液に溶けて消えてしまうことがあります。